10月2012

無駄無用の効用

生活

 一昨年のイグノーベル賞に、火災警報音の変わりに「わさびの匂い」で知らせる研究が選ばれた。なぜ、「わさび」なのかといえば説明が難しいが、初めて嗅ぐ人にも危険を知らせたり、耳の不自由な人にも効果的に危険を知らせるのに効果的なのだと。

このイグノーベル賞、以前は、思わず笑い出しそうな発明や役立ちそうにないようなものが多かったように思えた。昨今は、思わずうなってしまうようなものが多い。「わさびの匂いで危険を知らせる火災報知機」は、『音』の代わりに何を用いれば、より多くの人を救えるだろうかという真剣な研究から生まれている。

今年の受賞も日本人がめでたく受賞したが、”おしゃべり妨害器”。かような

発明に心血を注げる日本人は、開いた口が閉まらないという方もおいでだろうが、洒落ていて誇らしいような気分になる。

 

話は変わって、厳しい環境下で科学実験をしてもらう南極北極科学賞の2012年の受賞者に県立山口高校の生物・化学部の高校生が選ばれた。テーマは、「人の唾液の分析によって、ストレスの状態を調べる」というもの。

種明かしをすると、人はストレスが強くなると交感神経が刺激され、「でんぷん」を分解するときに唾液中の酵素であるアミラーゼが活発化することがわかっている。綿棒に唾液を採り、オブラート紙の上に唾液が落ちる時間を測定し

(オブラート紙の上に唾液が落ちると落ちた場所が解けてすぐに判る)、観察するのだと。ストレスが強くなると、唾液の粘着性がなくなり、綿棒から早く唾液が落ちるようになると。

高校生の真剣な実験を笑う人が多いかもしれないが、ふざけて生きているような御仁には、思いもつかない実験であることだろう。高校生とて、知る限りの知識や経験を糧に、世に貢献したいと願い、思っているのだ。実に尊い気持ちだと思う。

 

よく大学の研究室のことを「象牙の塔」と評し、小馬鹿にするような言い方を耳にすることも多い。大学の研究室が世俗離れしており、大学教授らが世間に疎いため、小馬鹿にしたような言い方がなされるのだとも聞く。しかしながら、よく考えてみると俗世間にまみれないからこそ、純粋に人の命の問題や

公共の福祉に貢献できる考え方やアイデアを得ることに至るのではないかと。

言い換えれば、世でいわれる「無駄」や「無用」といったものが、世の中を進化させている可能性だとて否定できない。たとえば、書や画を例にとると、紙の白さ、つまり何も描かない余白があるからこそ美しく見えるという真実が

ある。何もない、何もしない余白の部分がなければ、せっかくの逸品も駄作となり得る。無駄無用にも効用がある。屁理屈にも聞こえるかもしれないが、目的のある無駄、意味のある無用というものもあると信じたい。