5月2013

五月のバラ

生活

 霞のかかる、あるいはうす曇りの陽射しが柔らかな空の下、花は桜以外に思いつかない。ソメイヨシノを代表格に、なんと桜の種類の多いことだろうか。

桜は、その昔、日本人の田植えに対する豊穣を願い、野生種から行事に使われる花として里山に移されたと聞いた。お祝いに、あやかりたい思いで花は桜木、魚は鯛という具合である。魚の仲間に、鯛とは似つかない魚が鯛と名乗っているように、花にも桜にあやかるサクラソウの仲間がたくさん存在する。

 

西洋の場合、断然、花はバラである。イタリアでは、花自身の総称がバラという感じで、どの花もバラという言い方になると聞く。欧州では、大方、花イコールバラということになるらしい。

さて、桜はバラ科。サクラソウは、Prim Rose。バラにあやかる気持ちが、人の潜在意識に横たわっているのだろうか。「万事うまく行くさま」が、Roseを使った英語の慣用句では、“Sunshine & Roses”である。なるほど、真紅のバラに惜しみなく陽がふりそそぐさまには、なにも不足を感じさせない。

生花事業を手広くなさっている方に伺ったのだが、日本のバラは、5月の生産が一番大きく、品質もよいのだということである。花の生産者は、需要に合わせて開花や出荷を調整すると聞く。気品あふれるバラをつかって、5月にチャリテイーコンサートでも開催できないかと思ってしまう。上着のポケットにバラを挿し、あるいは、襟にコサージュをつけてチケット代わりにして入場してもらう。終了後は、穏やかな気分でお帰りいただくのに、小ぶりのきれいなバラをお土産に差し上げる。もちろん、小休止には、液体宝石たるワインを振舞いたい。気分としては、赤も白もなくRoseに限る。

塚田三喜夫の歌で、五月のバラという歌がある。

若い方でも、どこかで耳にしたと思うような楽曲で名曲である。

なかにし礼作詞、川口真作曲で名曲なのだが、一般的には尾崎紀世彦とか布施明の歌った声が、心の襞にこびりついて残っているようだ。「忘れないで、忘れないで、時が流れ行くとも」はいい感じだが、その後の「むせび泣いて、むせび泣いて、別れ~」の部分が、なんともめめしい感じで、いまひとつ気分が乗らないところもある。しかし、一年で最も気候の良い時分を歌うに情感豊かで申し分ない曲調である。アップテンポで、フレーズにたくさんの言葉を押し込むような楽曲や、陰鬱な思いを切々と歌った曲が増える中、古いとか、オヤジ臭いとかいわれても、クァンツォーネ風に青い空の下、思い切り歌いたい曲だ。

欧米かぶれのつもりはないが、花を暮らしに生かす欧米の街中はさすがに思う。豊かに咲匂う花の店先、一輪のバラを買った紳士が、自然な所作でバラを上着のボタンホールにさして歩き、町並みや季節の情景に溶け込んで見える。